天流仁志の受験情報ブログ

東大法学部(政治コース)卒、受験戦略研究の専門家です。ノウハウの大部分は「学習の作法」を始めとする著書で公開しており、本ブログは今のところその補完的な位置づけとなります。趣味の選挙の話もたまに書きます。

9割受かる勉強法VS和田式勉強のやる気を作る本

やる気の出し方をメインにした勉強法本の新刊を2冊を紹介します。
ダイヤモンド社「9割受かる勉強法」と学研「和田式勉強のやる気を作る本」です。
どちらともつい最近出た本で、最新の研究を生かした内容ですが
対照的な点も多く面白い。

著者はどちらも特定科目の予備校講師や教育学者ではなく
「受験技術研究家」
「9割受かる」の松原一樹氏は偏差値20台を記録し無名校にかろうじて入学したという正真正銘の落ちこぼれ。
一方「和田式」の和田秀樹氏はご存知の通り「落ちこぼれ」の時期があったとはいえ名門中の名門、灘中・高の出身です。
当然、進学校の生徒なら「和田式」のほうが、無名校の生徒なら「9割受かる」のほうが共感しやすいでしょう。
しかし、必ずしも進学校の生徒が「和田式」を、無名校の生徒が「9割受かる」を参考にすべきというわけではない。
「和田式」には進学校なら常識とされていること、すなわち無名校の生徒が参考にすべきことが多いですし
逆に進学校の生徒にとっては「9割受かる」のような視点は大いに参考になるでしょう。
「和田式」はシリーズの類書(例えば現役合格バイブル)とかなり内容が重なるので、すでにそれらを読んだ方には
「9割受かる」のほうがおすすめです。

一見、「9割受かる」にはある程度まとまった文章が続くのに対して
「和田式」は小さめのネタを集めた構成に見えますが
「9割受かる」も内容は結構細分化されていますし「和田式」にも各項目のまとめがあります。
「和田式」はわかりやすい言葉での記述や細分化を徹底しているのに対して、
「9割受かる」は縦書きで字が大きく、見やすい図も多用しています。
結果としてどちらも学力が高くなく生徒にも読みやすくなっており、この点ではおすすめです。

内容に関する注意点ですが
「和田式」には授業の活用法など学校生活についての記述が多いのに対し、「9割受かる」にはない。
「9割受かる」には学習法や参考書に関する記述が結構あるのに対し。「和田式」にはない。
「和田式」は学習法は同シリーズで評価の高い「高2からの受験術」「受験英語攻略法」を挙げていますし
「やる気を出すこと」に完全に特化しているともいえます。
ただし、経験上、学習法や参考書名を挙げることもやる気につながる要素と言えますし
学習法がそれほど詳しいわけでもないため「9割受かる」もやる気を出す方法がメインの本という評価は変わりません。

さて、それぞれの内容に関する特徴ですが「和田式」は「心理学の最新研究結果」を踏まえたとある通り、
「人間関係術」に一章分を割いているなど、他人との関係を重視しています。
自分ひとりの力ではできないことも、他人をうまく利用することで成し遂げるという、環境に恵まれた著者らしい発想だと思います。
「9割受かる」の特徴は筆者の自伝が面白い、あちこちに配された合格体験記が印象的(人によっては鼻につくでしょう)ということもあります。
しかし、ビジネス書によくある経営学的な視点や、SEならではの「シンプルイズベスト」という価値観が反映されていることこそが最大の特徴でしょう。。
内容は単純ですが、それだけ説得力がありますし妥当性を失わない範囲に収まっています。
「研究家」を名乗り、徹底した計算のもとに書かれている「和田式」の内容のほうが情緒的で、
「マイスター(職人)」を名乗り、情に訴えるような書き方になっている「9割受かる」のほうが返って理知的な内容というのは興味深いところです。

なお最新の研究ではなく伝統的な予備校講師の本なら安河内 哲也・吉野 敬介著『今日から始める「やる気」勉強法』が、
複雑な受験事情に応じた個別の対策や、より具体的な学習法について知りたい方には拙著がおすすめです。

※書店によって「9割受かる勉強法」は学参の勉強法ではなくビジネス書の新刊コーナーに置かれているようです。実物を見たい方は気をつけてください。