天流仁志の受験情報ブログ

東大法学部(政治コース)卒、受験戦略研究の専門家です。ノウハウの大部分は「学習の作法」を始めとする著書で公開しており、本ブログは今のところその補完的な位置づけとなります。趣味の選挙の話もたまに書きます。

1月11日に行われた第5回道コンの難易度について

 今回は専門外という立場を生かして勝手な感想を書いていきます。難易度評価は個人の感想です。そして、私は北海道の高校入試は専門外なので、道コンだと英数国はほとんどの問題が簡単すぎるように見えがちです。

 まず、全体としてですがやはり1月の道コンは北海道の入試問題の傾向にそっくりだという感想です。科目感のバランスといい、科目内のバランスといい、予想される出題難易度といい実によくできています。上位層は得点を伸ばしやすかった反面、上位層以外には難しい傾向が強まったように思います。ただ、その上位層がどのくらいまでか、というのが判断しかねるところで、実際に昨年の入試では難化がトップ校に至るまでボーダーラインに大きく影響したらしいということがわかっています。

 国語は第一問の知識問題が昨年の道コンや入試本番より簡単。ただし、メインの文章が評論で語注もついていたことから昨年の道コンよりは難しく、平均点ではむしろ下がるかもしれません。

 数学はさすがに去年の道コンよりは易化したと見えます。去年のは大問2の確率が難しく、終盤のやや難しめの問題の正答率にもかなり響いていたようでした。今年も明暗を分けたのは大問2で、(3)をすらすら解けたもしくは早々に諦められたかどうかで差がつくと思います。というのも、大問4や5、特に5が明らかに易しくなっていたからです。満点近い高得点者が増えるでしょう。こういうバランスは数学の実力を正しく測るのには不向きと思われ、全国的にもあまり見ないのですが、北海道では割とよくあるようです。つまづいた人は傾向への対策、今回よくできた人は本番の4や5がここまで簡単になるとは限らない点を意識しておくのがいいでしょう。大いにありうることとも思いすが。

 理科、社会については難しかった昨年の入試本番によせてきたので昨年同時期の道コンよりは難しかったと思います。あからさまな難問はほとんどないのですが、昨年の入試同様に典型から少し外れた見慣れない問題や苦手になりがちな分野からの出題が多めで、その分平均点が下がるパターンでしょう。もっとも入試本番では予定以上に平均点が下がってしまったため今年は修正が予想されますので、今回の道コンはそこまでの難しい問題は予想していないと思います。

 英語は正直なところ難しい要素を見つけるのが難しいです。リスニングが長めとはいえ、首都圏などの感覚だと文章の量は少ないし読みにくいところもない。共通テスト的な意地悪な設問があるわけでもない。強いていえば大問3のCで後半が見慣れない話題になっていたというところでしょうが、時間があれば影響は少ない。おそらく昨年の道コンに近いレベルだったのではないでしょうか。

 結果、多少願望も含みますが札幌南高校、札幌北高校の第一志望者平均点は昨年よりやや上昇(昨年はそれぞれ420、404)するものの、他は横ばいかやや下がるのではないかと予想します。そして、ここからが本当に言いたいこと。本番でも今回の志望者平均点を超えていればまあ大体合格はするのでしょう。しかし、それぞれのカリキュラムを考えれば英語数学国語で札幌南高校ならそれぞれ90点、札幌北高校、札幌西高校、札幌東高校でも80点を取れない(頑張っても取れそうにない)ようなら、入学後はかなり厳しいと思います。受験校を決める材料にするつもりなら、合格可能性などよりこちらを参考にすることをお勧めします。

 

北海道の高校受験と進学校はどうなるべきか

 北海道の高校受験事情の特徴は、なんといっても公立進学校を脅かせるような私立校が存在しないことでしょう。公立トップ校より上位どころか、トップ校の滑り止めとなるべき2番手校、3番手校に匹敵するような私立校、保護者世代の方にわかりやすく言うと、かつての函館ラ・サールのような高校が存在しないのです。

 公立トップ校にとってはライバル校が存在しないため、授業やカリキュラムを工夫するモチベーションが働きにくいという点では、首都圏などの学校に対して不利になっていると思います。

 しかし、これは進学校の大学進学実績にとって必ずしも良くないことばかりではないと思います。なぜかと言えば、公立トップ校は危ないと感じる受験生が公立の2番手、3番手校に流れる結果、トップ校でもボーダーラインは低くなるので、すでに合格圏の学力に達している生徒が高校入試の勉強に必死になる必要がないからです。多少ミスをしたり問題の質が安定しなかったりしても、上位層にとっては合否に関わらないのです。特に東大、京大が視野に入るような生徒には中学生のうちから高校内容を先取りする余裕が生まれやすいでしょう。これが例えば埼玉や千葉ではそうは行きません。高校入試対策が万全でないと、公立トップ校は危ない。札幌南高校合格者の半数程度は県立浦和や大宮、県立千葉高校だと合格できていない可能性が高いと思います。埼玉や千葉では中学受験だけでなく、高校受験においても最上位層の一部が開成や渋谷幕張、筑波大附属といった他校に流出するため、近年東大などの最難関レベルだと進学実績は目立たないですが、その層以外の学力は道内の進学校より上ではないでしょうか。

 私が考える道内の進学校が取るべき手段は2つ。一つは入試段階で埼玉のように英検、数検の2級以上に加点すること。英語や数学の点数にではなく、総合点に2級なら5点、準一級なら10点を加点するようにすれば上位層が本来やるべき学習に力を入れるモチベーションになるでしょう。

 もう一つは、ライバルとなる私立や国立がある地域と比べれば入学段階での学力差が大きいことを認め、それに沿ったカリキュラムを採用することです。具体的には全員一律に一種類の教材を宿題とするのではなく、比較的やさしいレベルと難しいレベルの教材を併用し、苦手な人はやさしいレベルを優先してマスターするように促すことです。例えば1年生の数学なら入門問題精講と青チャート、2年生の英語なら速単必修編と鉄壁という具合です。これは学力でクラス分けをしていない、下位層もそこそこの実績を上げる一貫校などに見られる方式です。

 

 

札幌南を受けるかどうかでよく考えるべきこと

 そろそろ学力テストABCの道コン換算偏差値が出され、三者面談に向けて受験校を決めるという時期です。学力テストは特に数学が簡単すぎて参考にしにくい面もありますが、一応の目安偏差値は得られることになります。

 これをもとにどの学校を受けようか迷っている、というような受験生には、私は札幌南高校の受験はおすすめしません。入学後、すぐについていけなくなる可能性が高いからです。実際問題、南高に進学したら北大にいけなくなるが北高に進学したら北大に現役合格できるだろうと思われるケースが多々あるのです。これは両校、というか道内で言えば札幌南高校と中高一貫校も含めた全ての高校とのカリキュラムの違いによります。

 簡単に言うと、札幌南高校では高校基本レベルの学習にあまり力を入れないカリキュラムになっています。受験勉強として高校基本レベルの学習を十分やってきた東京や大阪のトップ校とか私立難関校の生徒なら、そういったカリキュラムでもそれなりにやっていけるでしょうが、問題がやさしい公立高校や滑り止め校の対策に終始してきた生徒がついていくのは至難のワザでしょう。

 では、札幌南高校のカリキュラムについていくには、どの程度の学力があればいいか。以前、数学について説明したので今回は英語です。

 結論から言うと、英検2級合格レベルくらいが必要になってきます。高校基本レベルというと、英検で言えば準2級と思われるかもしれませんが、札幌南高校の英語では1年生から到達レベルが英検準1級の単熟語教材を与えられたりします。英検準2級になんとか合格する程度の英語力では相当の苦戦が予想されます。あの教材が想定しているのは英検準2級レベルの文章がすらすら読めて、英検準2級レベルの単熟語構文を大体覚えているレベルでしょう。そのレベルだと、英検準2級で9割程度得点できると思います。そして、その場合のスコアは英検2級合格相当になるのです。

 英検準2級レベルを極めるのでも、英検2級以上のレベルに手を出すのでも、どちらでも英検2級合格は可能です。おそらく東京では前者が多く、大阪では後者が主流でしょう。

 

生徒をミスリードする変な入試問題の今

 北海道の高校入試問題は改革の過渡期にあると思われるのですが、全国でみると変な形式の

入試問題からは解放された中学生も結構います。解放された中学生が結構いる、というのは解放された地域はまだ決して多くはないのですが、人口の多い地域で解放が進んでいるからです。

 生徒をミスリードする変な高校入試問題といえば、まずは理科社会の用語記述問題。今のところ北海道はこれが大好きです。用語の書き取りの配点の高さは、生徒に対して、とにかく用語を覚えることこそが理科社会の学習であるという強烈なメッセージになります。無論、意味や使い方を理解せず用語のみ覚えろという出題意図ではないでしょうが、実際には多くの生徒がそういう覚え方しかしなくなります。当然、学力にはマイナスの効果が大きいでしょう。確かに暗記が現象理解に直結するような用語(電磁誘導とか初期微動とか)もあるので、必ずしも用語の書き取りを廃止まですべきとは思いません。しかし実際に東京、神奈川、愛知では廃止され、兵庫県でも理科での出題がなくなり、今年から千葉県もそこに加わるのではないかと見られます。数は少ないですが、人口比ではかなりのインパクトがあります。用語の書き取りよりは正しい意味や使い方を選ばせる問題への対策の方が学力向上に資するでしょうから、都会の生徒の方が効果的な学習がしやすい環境にあるといえます。

 私は国語の抜き出し問題もあまり良くないと思っています。特に文中の空欄に当てはまるような語句や文を抜き出せという設問だと、文章内容より当てはまる形式を頼りに答えを探す生徒が多くなるので、読解力を伸ばそうというメッセージにはならないでしょう。東京都立(共通問題)のマーク式➕作文のような形式の方が読解力、表現力を伸ばすのに向いているのではないでしょうか。

  1.  なお、大都市圏以外だとトップ校まで定員割れが常態化して事実上高校入試が機能しなくなるような地域もどんどん増えているようです。地域格差を助長するばかりでなく、受験する側も運営する側も無駄な負担ばかり多い入試制度はもうやめて、高校入試も全国共通テストと都会の一部の学校では個別試験というような制度にする方が国全体の学力も向上すると思います。ちなみに、マーク式を導入した地域の大手塾では、科目によっては傾向が似ている国立高専の全国共通問題を練習用として紹介しているようです。

     

     

 

 

 

 

 

過渡期の入試対策

 

北海道の高校入試問題は難易度的にも形式的にも変化の途上にあると言えるでしょう。

 思考力・判断力・表現力重視の流れは明らかです。その場で考えなければならない問題がどんどん増えて、逆に単純な知識問題は減っていくでしょう。しかし、単年度で見たときは必ずしもそうならない科目も出るものです。

 北海道の入試問題の特徴の一つに、理科社会における用語の記述問題の多さがあります。用語の記述問題は単純知識問題の代表格であり、北海道では理科や社会が単純な暗記科目だと考えている人が多いですし、今でもそれを前提とした指導が広く行われています。しかし、東京や、神奈川、愛知ではすでにこの形式の問題が廃止されているように、全国的に見てもどんどん減っている形式です。今年までは比較的多く見られた千葉県も今回の入試から廃止する可能性があります。廃止まではいかなくとも多くの府県では出題数がかなり少なくなっています。

 北海道でも2022年には社会の用語記述問題が一気に減り、この年に限っては内容や形式のバランスが取れたスタンダードな出題でした。ところが2023年は2021年以前に近い数まで増えています。2024年はトレンドから見ると減る可能性が高いですが、多く出題されても、逆にいきなり消滅してもあわてないように準備しておくことが大切です。思考力重視の学習をベースに、苦手な分野の用語をピンポイントで補強できると効率がいいでしょう。また、実戦演習の材料としては古い過去問よりは新しい予想問題の方が役に立ちやすいです。

 

 

 北海道の入試問題は、理科社会では形式面から古さも目立つのですが、数学についてはかなり進んだ出題であると思います。答えを出すのが難しいような問題ではなく、過程を説明させる問題を増やしているからです。もちろん東京など他地域でも過程を説明させる問題は見られますが、それは主に上位校向けの問題です。全員が受ける入試であれだけ多くの記述問題を出す、そのぶんあまり難しい問題は出せない。おそらく入試改革の理念に忠実な問題ということになりますので、もしかすると数学の傾向に関しては他の地域をリードしていくかもしれません。 

高校入試の思考力特化型問題集

 高校入試では大学入試や中学入試と違って思考力問題に特化した解説の詳しい問題集が市販されていません。

 そこで、そういった問題が苦手な受験生が特化した対策をうたう塾の講習を検討するかもしれません。市販の問題集がない以上、オリジナルテキストも講習自体も価値がありそうなのですが、実はアマゾンだとそういう塾の講習で使うようなテキスト、しかも結構詳しい解説つきのものが市販参考書より割高ではあるものの、普通に売っていたりします。

 特に数学や理科社会の読解問題が極端苦手という人には効果が大きいでしょう。 

 

 

 

 5科目セットだと結構な割引になりますが、国語や英語は市販の問題集でも当然読解問題の対策ができるので、グラフなど新傾向が苦手な人だけでいいと思います。

 

 

 

おすすめの参考書ルート動画

 ネット上で「参考書ルート」などと呼ばれる市販の参考書を利用したカリキュラムを探そうとすると地方の国公立大学に重点を置いたようなものはなかなか見当たりませんが、首都圏の私立大学や全国区の難関大学に対応したものならたくさんあるというのが数年前までの常識でした。

 ところが、ここ最近はそういったカリキュラムの情報がYouTubeでしか見られないというトレンドのようです。YouTubeの動画もブログや記事と同様に玉石混淆なのですが、中でも優れていると思われるものをいくつか紹介します。

 まず日東駒専レベルを目標にあわよくばMARCH、もしかしたら早稲田という首都圏のボリュームゾーンがターゲットのもの。以前はテキストで公開されていた情報なのですが、現在は動画でしか見られないようです。エディットスタディーという専門塾のノウハウですが、卒業生のあべしゅんこさんが動画で解説しているものとなります。

 国公立まで含めた難関文系ではCASTDICETVが強いと思います。塾長のコバショーさんは高校からの開成→東大文系という経歴が私と似ているので、問題意識や発想法にも共通する部分があるのかもしれません。

 理系科の主要科目が一番いいと思うのは大学受験イチバンチャンネルというVtuberです。アマチュアの個人だそうですが、最新の参考書を真っ先に取り入れる点といい、網羅性や知名度より使いやすさを重視した参考書のセレクトといい見事というほかありません。 

 もちろんいずれも汎用的なものですので、個人の学力状況や受験予定校に合わせられるという意味では私が作るような(有料の)ものの方がより効果的だとは思います。