天流仁志の受験情報ブログ

東大法学部(政治コース)卒、受験戦略研究の専門家です。ノウハウの大部分は「学習の作法」を始めとする著書で公開しており、本ブログは今のところその補完的な位置づけとなります。趣味の選挙の話もたまに書きます。

かけ算の順序問題がなぜ起きるのか 算数のテストの決定的な欠点

 小学校のかけ算のテストで、

「かける順番が逆だと☓にされた!日本終わった!」

というような意見をわりとよく目にします。

実際にはかける順番が違うからと式が☓になるようなケースは少数派のようですが

もちろん☓にする側にも言い分があります。

 かける順番を逆にする生徒の中には、問題文を全く読まず、機械的に出てきた順番に数字を書けているだけという者が結構いる。問題文を正しく読ませるためにはかける順番にこだわるべきだ、というものです。

 この言い分は一面だけみると正しいと思います。しかし、期待どおりの順番の式を書いた生徒がちゃんと問題文を読んでいるかどうかはわかりません。やはり問題文の意味は考えずにデタラメに数字を組み合わせただけという可能性もあるからです。

 一部の教室では、問題文を正しく読み取らせるために、問題文が正しく読み取れているかどうかを判断するのは困難な基準で正誤を決める、という非常に理不尽な事態が起きているということです。

 算数のテストでは、文章題の「式」と「答え」の2つにそれぞれ点数を与えるという形式になっています。ほんとうに思考力や表現力を重視するなら、この形式はよくありません。高校数学の試験のように、「考え方」の配点を大きくして、「式」「答え」にも少しずつ点数を与えるというのが本来あるべき姿でしょう。

 しかし、ほんとうにそんなテストにしてしまうといくつもの大問題が起こるであろうことが容易に想像できます。第一に、採点が大変です。指導以外の雑務を多く抱える日本の教師には難しいのではないでしょうか。また、生徒側にとっても何をどう書けば良いか決まっているわけではないため、全く答えられない白紙答案が続出するでしょう。すると算数への自信を失わせ、「できないのが当たり前」という間違った考え方を染みつかせてしまうおそれがでてきます。

 思考力・表現力をほんとうに伸ばすためには問題文を絵や図で表現させて評価するやり方が適切だと思いますが、実際問題として学校に取り入れるのは非常に難しいとも思います。私立や国立のエリート小学校でしか成立しないのではないでしょうか。「考え方」を飛ばしていきなり式を書かせる小学校のテストは必要悪というか、現場の経験を反映した妥協の産物ということなのだと考えます。

 もちろんそれでは読解力が非常に低い子どもが育ってしまう可能性が高いので、それを嫌う教育熱心な親は自分で教えるなり、子どもを進学塾に通わせるなりすることになります。もっとも、共通テストの惨状なんかを見ると、図を書かせるような面倒なやり方を避けたり、子どもを自称進学塾に通わせてしまったりして、やはり読解力の低い子に育ててしまう教育熱心風な親も多いのでしょうね。